会長挨拶

社会イノベーションを創り出す化学工学会をめざして
Aiming for SCEJ to Create the Social Innovation

公益社団法人 化学工学会
会長 森川 宏平
Kohei MORIKAWA


このたび、松方先生の後を受け、2024年度化学工学会会長を拝命いたしました。
35年前の1989年、当時昭和電工の会長だった岸本泰延が当学会の会長に就任し、その巻頭言で「化学工学が化学工業に最も役立つ学問である事を身をもって体験した」と書いています。
私も昭和電工に入社以降、研究開発に25年間従事する中で、ラボから設備化へとスケールアップする過程で化学工学の知識を活用してきました。そしてその有用性(正しさ)を肌で感じてきました。化学工学が対象とするプロセスは時代の要請により肥料、石油精製・石油化学、省エネ、バイオ、環境など変化をしてきましたが、化学工業という実学における化学工学という学問の重要性は何年たっても不変です。
化学工学会は創立100周年の2036年に向けてVision 2036を2023年度に策定しました。2019年の札幌宣言で提示した「Efficiencyから Sufficiencyへ」の考え方をベースに、化学工学、化学工学会およびそれらにかかわるすべての人が目指す方向性を示したものです。Vision 2036のミッションとして掲げた「人と科学技術で社会の未来を拓く」活動がスタートしています。
今、社会(人類)が解決しなければいけない大きな課題は「持続可能な地球環境を作る」、さらに言えば「人類が持続可能な地球環境を作る」ことです。カーボンニュートラル(CN)社会の実現は持続可能な地球環境を作るための重要なピースの一つであり、化学産業が重要な役割を果たすことが求められています。
化学産業におけるCN達成のためには次の2つの「転換」が必要です。

  1. 化石資源からの原料転換
  2. カーボンニュートラルなエネルギーへの転換
これらの転換には「CO2の分離・回収・資源化」「廃プラのケミカルリサイクル」「バイオ原料の使用」「バイオ燃料、アンモニア、水素などの再生可能エネルギーの使用」といったものが含まれます。現在のプロセスが全く新しいプロセスになる可能性がありますが、化学工学の基礎的なデータ、化学装置の安全な運用に関する情報など、新しい技術を社会に「実装する」という地に足のついた活動を実践してきた化学工学会の蓄積してきたものが求められることは間違いありません。

地域連携でのカーボンニュートラル活動

化学工学会「地域連携カーボンニュートラル推進委員会」の活動は、CNの重要なトピックスに挙げられます。山口県周南地区では、周南市、コンビナート構成企業、化学工学会が「周南コンビナート脱炭素推進協議会」を設立し、2023年5月に「周南コンビナートカーボンニュートラルロードマップ」を発表しました。他の地域でも様々な活動を通して地域のCNに貢献していきます。

教育・人材育成

化学工学がこれからも役割を果たしていくためには教育・人材育成が重要です。化学工学会では2022年から中高生などにジュニア会員を設定し、若い方々が入会しやすい環境を作りました。2023年から、英文学会誌Journal of Chemical Engineering of Japanがオープンアクセスとなりました。化学工学の教科書に沿ったわかりやすい解説ビデオも2024年から公開されています。2024年3月には、化学工学会のホームページがより使いやすく更新されました。
化学工学という学問の価値と魅力を若い方にも広く知ってもらい、化学工学が選ばれる学問になる活動を進めていきましょう。学会の枠を作らないオープンなスタンスが、大学等研究機関、企業、行政などをつなぎ、生成AIなどの新しい技術も利用し、社会イノベーションに繋がる事を期待しています。



松方前会長の進められた、学会活性化の多くの取り組みも継承し、化学工学会のさらなる発展を目指します。



(略歴)
1982年3月 東京大学工学部合成化学科 卒業
1982年4月 昭和電工(株)(現(株)レゾナック・ホールディングス)入社
2013年1月 同社執行役員 情報電子化学品事業部長
2016年1月 同社常務執行役員 最高技術責任者(CTO)
2017年1月 同社代表取締役社長 社長執行役員 最高経営責任者(CEO)
2022年1月 同社代表取締役会長
2023年1月 (株)レゾナック・ホールディングス代表取締役会長
2024年3月 (株)レゾナック・ホールディングス取締役会長 現在に至る
2018~2020年 石油化学工業協会 会長
2020~2022年 日本化学工業協会 会長