vol.2021-02 (2021.11.9) | 学会本部活動通信

学会本部活動通信2021年度vol.2

2021年11月9日
化学工学会副会長 辻 佳子

 10月23日はアボガドロ定数に由来して「化学の日」と制定されております。今年は、この日に、公益社団法人化学工学会、公益社団法人高分子学会、一般社団法人触媒学会、公益社団法人日本化学会、一般社団法人日本化学工業協会、公益社団法人有機合成化学協会の6団体は「2050年カーボンニュートラルの実現―地球規模の課題に取り組む化学系学協会―」というテーマでパネルディスカッションを開催しました。
 化学工学会からは、石飛修会長がパネリストとして登壇いたしました。

【プログラム】
開会挨拶
趣旨説明
カーボンニュートラルの現状認識
各学会からの取り組み紹介
 これまで行ってきた活動・保有する技術的なポテンシャル
 今後の取り組み、注目する技術分野
パネルディスカッション
未来社会の全体像
まとめ
閉会挨拶  化学工学会は、各学会からの取組についてトップバッターとして紹介し、各学協会のプレゼンテーションのあと、未来社会の姿について話題提供させていただく機会をいただきました。

1. これまで行ってきた活動、保有する技術的なポテンシャル

 日ごろから産学官の垣根を取り払い協力しあえる場を提供し、「技術イノベーションを推進する産学連携拠点」となって技術課題の抽出や社会実装に取り組んでいる化学工学会が、これまで行ってきた活動として、2019年度の札幌宣言の取り纏め、2020年度の地域連携カーボンニュートラル推進委員会の立ち上げ、シンポジウム開催による情報発信について紹介しました。化学工学は、プロセスやシステムを組み上げる際、物質収支、熱収支、運動エネルギー収支、単位操作、化学平衡移動、プロセスシステム工学解析、ライフサイクルアセスメント、安全工学といった種々の要素技術の観点から評価しながら、最適化を図ってきました。カーボンニュートラルの実現には、産業・地域をシステムとしてとらえ、これらの要素の結合として、全体を設計し最適化する化学工学の考え方が役立つことを述べ、この例として、山口県周南地域でのCO2の排出削減を目指した産業群の地域連携と、種子島における地域資源の循環を考えた地域連携の2つの事例を紹介しました。

2. 今後の取組み、注目する技術分野

 私たちは現在、化石資源を使って必要なものを作り、利用し、廃棄しています。これを化石原料や燃料を使わずに、廃棄物を活用して、或いは大気中に排出されているCO2を取り込んで、ガス化あるいはオイル化して化学品原料や合成燃料を作るなど、CO2と水素から必要な製品を作り出す「炭素循環社会」を作ろうとしています。地域が中心となって、このような未来社会をデザインしていくにあたり、その実現のために必要な技術を開発し社会実装していく必要があります。ただ本格的な炭素循環社会を作り上げるまでには、まだまだ時間を要するため、それまでの過渡期には既存の技術を駆使して出来得る限りのCO2排出の削減が必要です。また、日本の再生エネルギーの不足を補うべく、再生可能資源が豊富な海外からの安価なエネルギーの輸入も取り進め、来るべき炭素循環社会で重要な役割を担うH2の確保に向けたサプライチェーンの構築にも気を配る必要があります。このような地域や時系列を考慮した取り組み、ビジョンの実現に向かって着実に推進していくファシリテーターの輩出が、今後、必要な取り組みであることを説明いたしました。地域社会では、市民や自治体が地域に見合った将来像を描き、産業と一緒になって炭素循環社会を創っていく事になり、皆で一緒になって、カーボンニュートラル時代に相応しいライフスタイルを話し合い、皆が充足感を持って生活できる炭素循環社会の生き方を模索していき、2050年には、地域に見合った炭素循環社会作りがglobalな展開となれば、ということを提案いたしました。

3. 2050年カーボンニュートラルおよび炭素循環社会の達成に向けて

 未来社会の姿についての話題提供では、私たちの今後の取り組みは、皆が幸福で健康で安心して暮らせる未来社会のビジョンを皆で考え、多様な地域文化やビジョンに基づく炭素循環社会を実現していくこと、そのための産業・社会が融合した新たなシステム作りと、化石燃料代替に資する技術や廃棄物から化学品に転換する技術など数々のイノベーションが必要であることを述べ、このlocalな活動をglobalに広めていければと考えていることを紹介しました。
 一方で、日本のCO2排出量は電力セクターが約40%、運輸が約20%で、残り約40%は熱利用が占めるため、熱の脱炭素化も大きな課題です。そのためにも、水素利用は一つの鍵となるので、化学産業は、ここにフォーカスした開発を推進し、カーボンニュートラル時代を託せる技術を築き上げる必要があること、さらに、製鉄やセメント製造時に発生するCO2の有効活用等、産業連携を加速する必要があることを提案いたしました。 当日の講演資料は以下に掲載しております。
 https://goingvirtual.scej.org/static/cn20211023/cn20211023.html  カーボンニュートラルの重要性は、人類として、社会として、避けては通れない問題であります。公開シンポジウムの活用、マスメディアからご支援頂くなど、あらゆる機会をとらえて話し合いの場を持ち、様々なステークホルダーの方と共に議論させていただきたいです。